33. ほかにHIV暴露前の予防手段はあるの?

おそらく将来的には、ほかの抗レトロウイルス薬を含む、PrEPの新バージョンが提供されるようになるでしょう。錠剤以外にも、持効性注射剤、膣リング、または膣や直腸に挿入可能なジェルなどが入手可能になるかもしれません。

32. オンラインで販売されているPrEPが本物かどうか、どうすればわかるの?

PrEPsterとiwantprepnow.co.ukは、iwantprepnowに掲載されているオンラインショップからPrEPを購入・服用したことのある人々に対して、セクシュアルヘルスの専門医と協力して治療用薬物モニタリング検査(TDM)を実施しました。最近の研究では、200を超える検体の検査を実施しましたが、いずれの報告でも偽薬は見つかりませんでした。 2018年の夏、PrEPsterは主要なオンラインショップ6社から購入したPrEPの検査を実施しましたが、偽薬は見つかりませんでした。

31. PrEPの服用に関して、いつ開始するか・止めるか、矛盾したアドバイスがあるのはなぜ?

全ての国際的なガイドラインが、PrEPの開始方法と中断方法について、同じ勧告を与えているわけではありません。矛盾する情報を聞くことがあった場合には、ほかのガイドラインの内容を知っておくことは役に立ちます。ガイドラインの不一致の一部は、限られた有効なエビデンスに対する科学的解釈の違いが原因です。また、専門家たちによって、リスクとハームリダクションに対するアプローチが異なることも原因です。言い換えると、医師は高い確証を得ている方法について、たとえ一部の人々が実践するには困難であったとしても、「安全でしょう」と推奨すべきなのか、それとも、リスクを完全に0にする方法よりも、リスクを低減するような実用的な方法を選択すべきなのか、ということです?
世界保健機関(WHO)は、膣性交、肛門性交いずれの場合も、PrEPを7日間服用したあとに、血中濃度が保護レベルに達すると勧告しています。また、PrEPを中止する場合、HIVの感染リスクのある性交渉の後、28日間継続されるべきであると言っています。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)からのガイダンスによれば、PrEPは肛門性交で挿入される側の場合は7日後に、シスジェンダー女性が膣性交する場合は20日後に、それぞれ最大の予防効果に達すると説明しています。この2つのより慎重な姿勢のガイドラインは、関連調査が終了する前の2014年に公開されました。

30. 肛門性交が感染リスクの場合、オンデマンドPrEPはデイリーPrEPと同じくらい有効なの?

オンデマンドPrEPを調査したフランスのIPERGAY研究の有効性の結果は、デイリーPrEPを調査したイギリスのPROUD研究とほぼ同じでした。どちらの研究でも、PrEPの服用方法を遵守していた人は誰もHIVに感染していませんでした。それ以来、オンデマンドPrEPはフランスで展開されており、ほかのヨーロッパ諸国でも実施研究を通じて提供されています。また、シスジェンダーのMSMでオンデマンドPrEPを遵守したHIV感染の報告はありません。IPERGAY研究の結果を解釈するにあたっては1つ問題があり、多くの治験参加者がかなり頻繁に性交渉を行なっており、高い頻度でPrEPを服用していました。平均して、参加者は毎月15錠を服用し、5人に1人の参加者は毎月25錠以上服用しました。つまり、ほぼ毎日の服用に相当します。これは、次の服用までの間に薬物レベルが著しく低下する時間がないことを意味するでしょう。とはいえ、コンドームなしの性交渉を行う頻度が低い(平均で週1回)が、オンデマンドPrEPを推奨される方法で服用したIPERGAY参加者の分析は、PrEPが変わらず有効であったことを示しています。PrEPを服用しているグループではHIVの感染はありませんでしたが、プラセボ(偽薬)を服用しているグループでは感染が発生しました。オンデマンドPrEPは一般的にデイリーPrEPより少ない服用量なので、服薬方法を遵守しなかったり、薬を飲み忘れることは有効性に大きな違いをもたらすでしょう。デイリーPrEPを服用中で、とりわけ感染リスクが肛門性交の人は、もしときたま、服用を忘れたとしても、予防効果が保たれているでしょう。オンデマンドPrEPではこの限りではありません。いくつかの国際的なガイドラインは、オンデマンドPrEPについて慎重な態度を示しています。この理由の一つは、これまで有効性を示した研究がIPERGAY研究しかないからです。通常、複数の研究で一貫した結果を得られることが望ましいとされています。IPERGAY研究の結果は非常にすばらしいですが、研究としては比較的小規模でフォローアップ期間も短いものでした。

29. PrEPが効かなくなる人はいるの?

耐性を獲得するのはウイルスであって、人ではありません。つまり、ある人がPrEPの薬に対して耐性を持つことはあり得ません。また、PrEPを服用しているHIV陰性の人は体内にウイルスを有さないので、薬剤耐性ウイルスが生じることはありません。

28. PrEPは薬剤耐性の問題を引き起こしますか?

PrEPと薬剤耐性についての不安や懸念の声がありますが、それらは必ずしもきちんと考え抜かれたものではありません。以下のように潜在的な問題を区別するべきです。

  • PrEPの服用者がHIVに感染し、薬剤耐性を獲得する
  • PrEPが広く普及したことによって、薬剤耐性がより問題になりはじめる
  • 薬剤耐性が原因で、PrEPが効かなくなる

PrEPの服用者がHIVに感染し、薬剤耐性を獲得する
すでにHIVに感染している人が(感染に気づかないまま)PrEPの服用を開始するか、またはPrEPを服用しているにも関わらず(何らかの理由で)HIVに感染し、そのまま服用を続けた場合、服用しているその薬はHIVの治療薬として最適なのかという懸念です。PrEPを構成する2つの抗HIV薬はHIV感染を治療するのに十分ではありません(治療には通常3つの抗HIV薬が使用されます)。このような状況下では、その人のHIVが増殖して抗HIV薬に耐性化し、HIVの治療を開始する際に薬の選択肢を潜在的に狭めてしまう可能性があります。実際の統計でも時々こういった事例の発生が報告されています。臨床試験でPrEPの提供を受け、HIV陽性になった50人のうち1人未満の割合で、HIVの薬剤耐性が認められました。これらの症例のほとんどが、すでにHIV感染のごく初期段階にPrEPを服用しはじめた人々の事例でした。PrEPを開始する前にHIV検査をするのが標準的な医療行為ですが、検査の種類ごとにある「ウィンドウ期間」内だと直近の感染が見逃される可能性があります。同様の事態は、PrEPの服用を中断している間にHIVに感染した人が、そのあと新たなHIV検査を受けずにPrEPを再開した場合にも起きる可能性があります。こうした事例は、PrEPの開始時と再開時に医療機関を受診し、採血された検体を専門検査機関に送付し検査する「第4世代」のHIV検査を実施することが重要だと強調しています(迅速検査や家庭用検査キットでは、直近の感染を検出できません)。また、PrEPを開始したい人が発熱や発疹などHIV感染の初期症状を有している場合、医療機関を受診し医師の診察を受けることの重要性が強調されています。PrEPの飲み忘れがかなり多く、薬の血中濃度があまりに低い場合、結果的にHIVに感染し、薬剤耐性が発生する可能性があります。耐性はほとんどの場合テノホビルに対してよりも、エムトリシタビンに対して起こります。PrEPを服用している間に薬剤耐性を獲得した場合には、それ以外で使用できるいくつかの抗HIV薬を組み合わせてその後の治療を行っていきます。

PrEPが広く普及したことによって、薬剤耐性がより問題になりはじめる
PrEPが広範に利用されることで上記の事例が多数もたらされた場合、 HIVの薬剤耐性株はより広範囲に拡大してさらに流行する可能性があります。今後そのようなことになった場合、コミュニティにおけるPrEPとHIV治療の両方の有効性に強い影響を及ぼします。これまでの経験では今のところこういった事態が起きている兆候はありません。とはいえ、PrEPが臨床試験中に比べ、臨床モニタリングの頻度が下がりながら広がっていくと、状況がさらに進化する可能性があります。PrEPを初期の段階で服用開始したユーザーよりも、これからPrEPの服用を開始するユーザーの服薬アドヒアランス(遵守性)が低い場合、より多くの耐性が出現する可能性があります。この問題を考える際には、薬剤耐性のリスクとPrEPによって予防することのできる新規HIV感染数を比較検討する必要があります。たとえばある研究では5人が薬剤耐性を獲得しましたが、PrEPが約120人のHIV感染を予防しました。薬剤耐性は心配ではありますが、HIVに感染することは健康にとってはるかに深刻な脅威です。

薬剤耐性が原因で、PrEPが効かなくなる
PrEPの服用者が、薬剤耐性のHIVに感染している陽性者と性交渉をした場合、PrEPが感染を防げないかもしれないという懸念です。HIV陽性者がPrEPで使用されるエムトリシタビンとテノホビルの両方に耐性を持つことはまれであるため、これはめったにない現象と考えられています。PrEPとして使用されていないほかのHIV薬に対する耐性のほうがもっと一般的です。これまで世界中で、PrEPを正しく服用していたと思われるにも関わらずHIV陽性になった事例が学会報告されたのは4件だけです。そのうち2つの事例は、PrEP薬の耐性ウイルスへの曝露がありました。3番目のケースも同様の可能性がありましたが、研究者が確信するのに十分な情報が得られませんでした。4番目のケースではPrEPへの高いアドヒアランス(遵守性)にも関わらず、薬剤耐性のないHIV株で感染が起こりました。PrEPの失敗がきわめてまれであるが全く起こり得ないわけではない、ということ以外にはこのめったにないケースからほかの結論は引き出せそうにありません。

27. PrEPはほかの薬と相互作用がありますか?

PrEPはほかのほとんどの薬との間に相互作用はありません。 PrEPは、アルコールを飲む時や快楽のための薬物を使う際にも服用することができます。 PrEPは、ホルモン避妊薬やほとんどの市販薬と併用できます。
しかし、テノホビル(PrEPに含まれる成分の1つ)は、腎機能に影響するほかの薬と相互作用する可能性があります。これらには、いくつかの非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs、中でも特にジクロフェナク)、特定の細菌感染の治療に用いられるアミノグリコシド、ヘルぺス治療に用いられるアシクロビルおよびバラシクロビルが含まれます。
PrEPの服用者がほかの薬を処方される際、医師もしくは薬剤師にPrEPを服用中であることを伝え、薬の相互作用について確認することを強くおすすめします。リバプール大学の便利なウェブサイトはPrEPとほかの薬の相互作用について誰でも閲覧可能な情報を提供しています(www.hiv-druginteractions.org)。

26. 薬物注射を行う人もPrEPを利用できるの?

薬物を使用する人は、性交渉だけでなく薬物を注射する際の器具の共有でもHIVに暴露する可能性があります。PrEPは2つの感染経路に関して異なる効果を及ぼしえます。薬物注射を行う人において、PrEPが性交渉による感染を防ぐのは当然のことですが、注射器具の共有によるHIVの感染リスクへの効果は、前者ほど明確ではありません。薬物注射を行う人々を対象としたPrEPのランダム化試験は一度のみタイで実施されました。テノホビル(PrEPの薬剤成分のうちのひとつ)が薬物注射を行う人々のHIVの感染予防に部分的に効果があったことが示されました。この研究は、薬物注射による感染を予防するためのPrEPの有効性の評価を目的としていましたが、この有効性の一部は性行為による感染の予防による可能性があります。 この研究にはもう1つの問題点があり、それはすでに効果が実証されているハームリダクション(針・注射器の交換を含む)が提供されていないことです。 この研究の結果は、薬物注射を行う人々の中でもハームリダクションが提供されており、HIVの感染リスクがはるかに低い場合には適用困難です。薬物使用の活動家たちは、注射器具の共有によるHIVの感染を防ぐという点では、滅菌された針、注射器、そのほかの器具への継続的なアクセスを確保し、またオピオイド代替療法を提供することをPrEPよりも優先すると主張します。

25. なぜ女性のPrEP利用率は低いの?

ほとんどの西欧諸国では、PrEPの認知度と利用率は、ほかの社会集団とくらべ、男性と性交渉を行う男性のコミュニティではるかに高くなっています。この理由として、ゲイコミュニティにおけるHIV問題との関わりの長い歴史や、ゲイコミュニティでは個人個人がHIVに対し脆弱性を抱えていることが広く認識されていること、そしてPrEPを取り巻く近年のコミュニティによる積極的な啓発活動などが考えられます。ほかの社会集団においては、HIVにさらされるリスクについて認識していない人が多かったり、PrEPの存在を知らない人も多くいるのかもしれません。これには、HIVの感染リスクについて情報が限られている場合や、性交渉によってHIVに感染すると思っていない、あるいは感染リスクを理解していない人が含まれます。
特定の社会集団でPrEPの認知度と利用率が低いのには特別な理由があるかもしれません。イギリスを例にとれば、イギリス国外で生まれた女性が、セクシュアルヘルス関連のサービスにアクセスする際に、経済的、文化的、言語的な障壁に直面します。イギリスで暮らすアフリカ系女性の多くは、セクシュアルヘルスの問題が生じた際、現在PrEPが提供されているセクシュアルヘルスクリニックよりも、家庭医を受診する傾向があります。

24. 受胎時、妊娠中、授乳中にPrEPを服用しても安全なの?

受胎時、妊娠中、授乳中のPrEPの安全性に関する研究データは十分ではありませんが、一般的に安心だと考えられています。これから妊娠したいと希望している人、現在妊娠している人、また現在授乳中の人において、PrEPは服用可能とイギリス国内および国際的なガイドラインは述べています。
これまでに実施された研究では、PrEPの服用中に妊娠した人々に何ら問題は認められませんでした。PrEPの成分はごくわずかな量しか母乳に含まれず、授乳中であってもデイリーPrEPを安全に服用できます。
HIV陽性者のパートナーがいるHIV陰性者の方の中には、妊娠を試みる際のPrEPの服用に興味のある方がいるかもしれません。この場合、感染リスクの正確な理解が重要です。ウイルス量が検出限界以下の人からは、HIVは感染しません。とはいえ、妊娠を試みる際、より安心感を得るためにPrEPの服用を選択することもあるでしょう。あるいは、陽性パートナーのウイルス量が検出限界以下に減少していないために、PrEPの服用を決心するかもしれません。
また、妊娠中にHIVの感染リスクが高まった場合、赤ちゃんへの感染リスクも同様に高まります。 妊娠中は、PrEPを含む効果的なHIV感染予防へのアクセスが重要です。