28. PrEPは薬剤耐性の問題を引き起こしますか?

PrEPと薬剤耐性についての不安や懸念の声がありますが、それらは必ずしもきちんと考え抜かれたものではありません。以下のように潜在的な問題を区別するべきです。

  • PrEPの服用者がHIVに感染し、薬剤耐性を獲得する
  • PrEPが広く普及したことによって、薬剤耐性がより問題になりはじめる
  • 薬剤耐性が原因で、PrEPが効かなくなる

PrEPの服用者がHIVに感染し、薬剤耐性を獲得する
すでにHIVに感染している人が(感染に気づかないまま)PrEPの服用を開始するか、またはPrEPを服用しているにも関わらず(何らかの理由で)HIVに感染し、そのまま服用を続けた場合、服用しているその薬はHIVの治療薬として最適なのかという懸念です。PrEPを構成する2つの抗HIV薬はHIV感染を治療するのに十分ではありません(治療には通常3つの抗HIV薬が使用されます)。このような状況下では、その人のHIVが増殖して抗HIV薬に耐性化し、HIVの治療を開始する際に薬の選択肢を潜在的に狭めてしまう可能性があります。実際の統計でも時々こういった事例の発生が報告されています。臨床試験でPrEPの提供を受け、HIV陽性になった50人のうち1人未満の割合で、HIVの薬剤耐性が認められました。これらの症例のほとんどが、すでにHIV感染のごく初期段階にPrEPを服用しはじめた人々の事例でした。PrEPを開始する前にHIV検査をするのが標準的な医療行為ですが、検査の種類ごとにある「ウィンドウ期間」内だと直近の感染が見逃される可能性があります。同様の事態は、PrEPの服用を中断している間にHIVに感染した人が、そのあと新たなHIV検査を受けずにPrEPを再開した場合にも起きる可能性があります。こうした事例は、PrEPの開始時と再開時に医療機関を受診し、採血された検体を専門検査機関に送付し検査する「第4世代」のHIV検査を実施することが重要だと強調しています(迅速検査や家庭用検査キットでは、直近の感染を検出できません)。また、PrEPを開始したい人が発熱や発疹などHIV感染の初期症状を有している場合、医療機関を受診し医師の診察を受けることの重要性が強調されています。PrEPの飲み忘れがかなり多く、薬の血中濃度があまりに低い場合、結果的にHIVに感染し、薬剤耐性が発生する可能性があります。耐性はほとんどの場合テノホビルに対してよりも、エムトリシタビンに対して起こります。PrEPを服用している間に薬剤耐性を獲得した場合には、それ以外で使用できるいくつかの抗HIV薬を組み合わせてその後の治療を行っていきます。

PrEPが広く普及したことによって、薬剤耐性がより問題になりはじめる
PrEPが広範に利用されることで上記の事例が多数もたらされた場合、 HIVの薬剤耐性株はより広範囲に拡大してさらに流行する可能性があります。今後そのようなことになった場合、コミュニティにおけるPrEPとHIV治療の両方の有効性に強い影響を及ぼします。これまでの経験では今のところこういった事態が起きている兆候はありません。とはいえ、PrEPが臨床試験中に比べ、臨床モニタリングの頻度が下がりながら広がっていくと、状況がさらに進化する可能性があります。PrEPを初期の段階で服用開始したユーザーよりも、これからPrEPの服用を開始するユーザーの服薬アドヒアランス(遵守性)が低い場合、より多くの耐性が出現する可能性があります。この問題を考える際には、薬剤耐性のリスクとPrEPによって予防することのできる新規HIV感染数を比較検討する必要があります。たとえばある研究では5人が薬剤耐性を獲得しましたが、PrEPが約120人のHIV感染を予防しました。薬剤耐性は心配ではありますが、HIVに感染することは健康にとってはるかに深刻な脅威です。

薬剤耐性が原因で、PrEPが効かなくなる
PrEPの服用者が、薬剤耐性のHIVに感染している陽性者と性交渉をした場合、PrEPが感染を防げないかもしれないという懸念です。HIV陽性者がPrEPで使用されるエムトリシタビンとテノホビルの両方に耐性を持つことはまれであるため、これはめったにない現象と考えられています。PrEPとして使用されていないほかのHIV薬に対する耐性のほうがもっと一般的です。これまで世界中で、PrEPを正しく服用していたと思われるにも関わらずHIV陽性になった事例が学会報告されたのは4件だけです。そのうち2つの事例は、PrEP薬の耐性ウイルスへの曝露がありました。3番目のケースも同様の可能性がありましたが、研究者が確信するのに十分な情報が得られませんでした。4番目のケースではPrEPへの高いアドヒアランス(遵守性)にも関わらず、薬剤耐性のないHIV株で感染が起こりました。PrEPの失敗がきわめてまれであるが全く起こり得ないわけではない、ということ以外にはこのめったにないケースからほかの結論は引き出せそうにありません。