9月5日に開催したオンライン学習会で参加者のみなさまから送付いただいた質問に対して、各先生方からご回答をいただきましたので、以下に掲載いたします。
また、お忙しい中ご回答いただいた3名の先生方へお礼申し上げます。ありがとうございました。
Q1. PrEPを服用する直前に危険行為がありました。その3ヶ月後に検査をし陰性だったのですが、PrEPを服用していることで3ヶ月後の検査でも陰性にならない可能性はありますでしょうか? ちなみに服用を始めて1ヶ月ほどでやめました。
A. PrEPを服用していることで、陽性となるまでに通常よりも時間がかかることは想定されます。検査キットによって陽性と結果が出るまでの時間が異なります。質問された方の場合、念のため服用をやめたタイミングから数えて、その検査キットが必要とする時間が経過したタイミングで検査を受けておくことをご推奨します。(回答者:上村悠先生)
Q2. PrEP薬はどのような機序で体にその効能を示しますか
A. HIVは血液や組織にある私達の免疫細胞に感染して複製・増殖します。内服したPrEP薬は、腸管で吸収され血液を介して全身の組織へと運ばれ免疫細胞に取り込まれます。HIVは直腸の粘膜組織などから体内に侵入しますが、その後のウイルスの複製を組織の細胞に取り込まれた薬剤が阻害すると考えられています。(回答者:上村悠先生)
Q3.
●PrEPを使用したいのですが、使用間に保健所などで検査を受けてからの使用がいいのでしょうか?また、保健所に恥ずかしくてなかなか行けません。どのようにしたらいいのでしょうか?よろしくお願い致します。
●お二人のお話を聞かせていただきました。最近PrEPを使用しているという人を聞いて、関心を持ってます。PrEP使用前にHIV検査をしたいと思ってますが、コロナの影響で、近くの保健所で検査が中止になっている状況です。電話で問い合わせたところ、今後の状況も未定だそうです。先日クリニックで、有料の検査をしたのですが、時間をおいて、もう一度受けたいと思ってます。費用がかさんでしまうので、保健所で無料の検査を受けたいと思っているのですが、どうしたらよろしいでしょうか?何かアドバイスがありましたら、よろしくお願い致します。
A. PrEPを開始する場合には、少なくともHIVが陰性であること、B型肝炎の有無、腎機能について確認しておくことが必要です。また、PrEP開始後もHIVや腎機能の検査を定期的に受ける必要があります。PrEPは薬を使った予防策のため、健康被害がでないとも限りません。保健所の検査を補助的に利用するのはいいのですが、PrEPの開始を検討している場合には、自己判断で開始せず、PrEPに理解のある医療者と繋がり、医療機関で定期的な検査を受けてください。(回答者:髙野操先生)
Q4.
●医薬品の個人輸入は薬事法上で違法成分が微量にでも含まれしまったものが入ってきたりしまたりしてしまうリスクはどう回避できますか?(実は厚生労働省が医薬品個人輸入はダメと啓発ポスター作成されてます)。TDMしてあるジェネリックPrEPを見分けるサイトや情報が欲しいです。よろしくお願いします。
●PrEPを個人輸入した時に、偽物とか出回ってたりするのでしょうか?海外の薬の安全性は大丈夫でしょうか?
A. 輸入ジェネリック薬については安全性・有効性については保証をすることができません。また、TDMしてあるジェネリックPrEPを見分けるサイトは存じ上げません。
参考になればと思いSH外来で調べたデータがありますのでお示しします。2019年12月から2020年2月にかけて輸入ジェネリックPrEPを使用されている方の血中濃度を測定いたしました。58名の方に同意を頂き血液を測定しました。54名がツルバダのジェネリック、4名がデシコビのジェネリックでした。いずれの薬剤もインターネットで検索すると上位に出てくる8つの業者から購入されたものでした。テノホビルを測定した結果、全員の血液からテノホビルが検出されました。このデータから、日本でインターネットからPrEPを手に入れようとした際、偽薬を手にしてしまう可能性は高くはないのだと考えています。(回答者:上村悠先生)
Q5. どのように購入したらいいか分かりません。購入方法と支払い・料金などを知りたいです。よろしくお願い致します。
A. 現在日本では、抗HIV薬を予防薬として使用することは認められていません。そのため、PrEP実施者の多くが、インターネット上の輸入代行業者を通じて、個人輸入しているのが実情です。個人輸入で薬を入手した場合には、健康被害が起きた際の補償はなく、あくまでも自己責任となります。どの輸入代行業者が信頼をおける業者か、流通経路に問題はないかについて、はっきりしたことがわかりません。お薬の価格は、1ボトル(30錠)6000円前後+送料(税別)で販売しているところが多いように思いますが、業者によりその価格は異なります。一方、都内にはジェネリックのPrEP薬を処方するクリニックがあります。クリニックでは、PrEPに必要な検査、薬の処方、性感染症の検査と治療、ワクチン接種などを行っています。オンライン診療により遠方からも受診が可能です。(回答者:髙野操先生)
Q6. SH外来を受診しつつ、個人輸入でオンデマンドPrEPをしています。セックスの予定が空振り(リスキーな行為が無かった場合)になったとき、1日後、2日後の服用は行わなくても良いのでしょうか。
A. 空振りになった場合には残りの服用は行わなくて良いです。次の性交渉の前には、また一からオンデマンドPrEPを行ってください。(回答者:上村悠先生)
Q7. 抗HIV薬を服用していてウイルス値が検出限界以下となっている相手と性交渉するときでもPrEPの服用が必要でしょうか。
A. ウイルスが半年以上検出限界以下となっているのであれば、PrEPは必要ないと考えます。(回答者:上村悠先生)
Q8.
●デシコピの副作用はどんなものがありますか?
●もう少しデシコビの副作用などについてお伺いしたいです。
A. 嘔気、下痢などの消化器症状や頭痛が出る方がいます。いずれも発生頻度は数%未満のため、多くの方は副作用を自覚することなく使用することができます。その他にも、抗HIV薬に限らず他の多くの内服薬と同様に、さらに少ない率で様々な副作用が出現する可能性があります。こちらは添付文書をご参考にしてください。
補足の注意事項ですが、腎機能が悪い方では使用が勧められません。安全に使用するためには、事前の血液検査などによる評価が必要となります。(回答者:上村悠先生)
Q9. PrEPによるHIV予防効果は直腸組織であれば開始から7日かかると言われていますが、ツルバダによるOn Demand PrEPと矛盾しているように感じます。アナルセックスでウケをやる場合、果たして本当にOn Demand PrEPで予防効果はあるのでしょうか。
A. ツルバダはテノホビルとエムトリシタビンの合剤です。ツルバダを毎日内服した際、直腸組織のテノホビル濃度は7日後に94%で安定するというデータがありますが、予防効果が得られるのはさらに短いと考えられています。IPERGAYという研究で実際にon demand PrEPの内服方法で肛門性交におけるPrEPの安全性が86%あると報告されています。後に、別の研究でツルバダを毎日内服した際に、テノホビルの血中濃度は安定するまで5日かかったが、エムトリシタビンは2時間と短い時間で安定したというデータが報告されています。こういった事実が実際にIPERGAY研究でon demandの方法で効果が得られたことに関連をしているかもしれません。2017年の米国のガイドラインではon demand PrEPは推奨されていませんが、英国(2018年)、WHO(2019年)ではOn demand PrEPが予防として推奨されており、MSMにおいてはon demand PrEPにも効果があるものと考えています。(回答者:上村悠先生)
Q10. 以前SH外来にて、PrEPによるHIV予防効果はペニスの場合(タチの場合)、何日かかるかのデータはないと聞きました。本当にデータが存在しないのでしょうか。
A. 直腸の組織でのPrEP薬の濃度についてはデータがありますが、男性の性器(尿道、亀頭、包皮)の組織において同様の研究はありません。IPERGAY研究では、男性同士のanal sexにおけるon demand PrEPの安全性については86%と報告されています。この研究ではウケとタチは区別せずにanal sexとして評価されていますので、タチの方が含まれていると考えられます。(回答者:上村悠先生)
Q11. クラミジア、淋病などのSTDに感染した場合HIVの感染率が上がると言われていますが、PrEPを使用した中でクラミジア、淋病に感染した場合、HIVに対する予防効果が低下する報告はあったりするのでしょうか。
A. 現時点で、その様な報告はないと考えています。(回答者:上村悠先生)
Q12. SH外来は医療証など使用できますか?
A. SH外来で行っている診療および検査は、保険外診療となります。そのため、医療券をお持ちの方でも、初診料2880円(税別)、再診料740円(税別)をお支払いいただきます。ただし、治療が必要な状態である場合には、保険診療になりますので、医療券が使用できます。(回答者:髙野操先生)
Q13. PrEPが推奨される人の1つに最近性感染症にかかった人とございましたが、最近とはどれくらい前のことだと理解すればよろしいでしょうか?また梅毒にかかると一般的に通常の人と比べるとHIVに感染しやすいと聞きました。梅毒に1度かかってしまった場合、PrEPを服用することは推奨されるのでしょうか?
A. 明確な基準はありませんが、目安は半年から1年ほどです。但し、1年以上前であっても同じ性行動を続けているのであればPrEPを検討して良いと思います。
梅毒にかかっている最中はHIVに感染しやすくなる可能性がありますが、梅毒が治ればHIVに感染しやすくはありません。但し、梅毒の治癒後であっても、梅毒にかかる行動を続けている場合にはHIVに感染しやすいと思います。梅毒に1度かかった後、同じ性行動を続けている方にはPrEPは推奨されると思います。(回答者:上村悠先生)
Q14. 7月にSH外来で初診を受け、その際にPrEPを希望する旨で指導頂きました。次回の診察が10月となるのですが、コロナ禍で初診以来、一切の性交渉の機会がありません。それでも10月の定期健診を受診した方がよろしいでしょうか?PrEP薬は、TENVIR-EMを個人輸入し入手はしておりますが、一回も服用していません。
A. SH外来は、研究参加者に概ね3か月毎の受診をお願いしている研究外来です。リスクのある、なしに関わらず、定期受診をお願いしています。ただし、仕事の都合などで定期受診が難しい場合や、コロナの影響で外出を控えているなどの理由で受診間隔が延びてしまうことは許容しています。(回答者:髙野操先生)
Q15. コロナとHIV どちらが大変(治療や感染のしやすさ)でしょうか?また、これからの時代、コロナと性病を考えた安全な性交渉はありますか?
A. 飛沫感染をするコロナの方がHIVよりも感染しやすいと考えて良いと思います。コロナは無治療で自分の免疫力だけで治ることがほとんどですが、HIVは自分の免疫力だけで治ることはありません。一方で、治療のしやすさという点では、コロナには特効薬の様なものがありませんが、HIVには抗ウイルス薬があり確実にコントロールすることができます。合わせて考えると、どちらが大変とは一概には言い表すことは困難です。(回答者:上村悠先生)
Q16. オーラルセックスの場合でもオンデマンドの服用方法を行っても大丈夫でしょうか。
A. アナルセックスの検証をした研究においても、実際にはアナルセックスだけではなく、オーラルセックスも含まれていると考えられますので、アナルセックスで効果のある予防方法であればオーラルセックスでも効果が期待できるものと考えています。但し、オーラルセックスとして検証された研究や、また薬剤の咽頭組織への移行性を検証した研究もなく、科学的な根拠は乏しいのが現状です。(回答者:上村悠先生)
Q17. ご説明ありがとうございます。カボテグラビルという予防を初めて聞いたのですが、日本では受けることができるのでしょうか?また費用やどこで受けられるの教えていただけたらと思います。よろしくお願い致します。
A. 2020年9月現在、日本においてカボテグラビル持効性注射薬はまだ発売されておらず、治療に対してもPrEPに対しても、承認を得ていません。したがって現在日本で投与可能な医療機関はありません。また費用は未定です。
このカボテグラビル持効性注射薬によるPrEPは、未だ研究段階であることに注意が必要です。(回答者:山口正純先生)
Q18. 肛門淋菌の検査って必要ですか?何科で受診できますか?
A. 肛門の淋菌感染は多くの場合で無症状です。無症状の場合、保険診療での検査は受けられません。そのため、SH外来では研究として検査を行っています。症状がある場に合は、内科、肛門科などで検査を受けることができますが、行える医療機関は少ないのが現状です。症状がない場合に検査を受けたい場合には、SH外来以外では、自由診療を行っている性感染症のクリニックで可能です。検査をする場合には、事前に医療機関に問い合わせをすると良いと思います。(回答者:上村悠先生)