HPV感染とワクチン

寄稿:髙野操(国立国際医療研究センター病院 エイズ治療・研究開発センター 臨床研究コーディネーター)

ヒトパピローマウイルス(HPV)は、性交為によって感染するウイルスで、性行経験者であれば、ほとんどの人が感染していると考えられるウイルスです。感染しても症状が出ないため、いつ感染したかを特定することはできません。HPV感染は多くの場合、個人の免疫力でその病原性が抑えられています。

HPVはおよそ200種類確認されていますが、その中でもハイリスク型と呼ばれるHPVに感染し、免疫力で十分に抑制することが出来ず、ウイルスが活発に増殖する状態が続いた場合には、子宮頸がん、肛門がん、咽頭がん、外陰がん、陰茎がんを引き起こす可能性があります。特にがんとの関連性が指摘されているのは、16型と18型のHPVです。また、ローリスク型に分類される6型、11型のHPVに感染した場合には、約70%の確率で性器にイボができる尖圭コンジローマを発症します。命にかかわる病気ではないものの、治療に時間を要し、再発を繰り返すことも多いため、できれば避けて通りたい疾患です。

現在のところ、HPV感染を治療する薬はありませんが、予防ワクチンがあります。性行為の経験があり、何らかのHPVに感染している可能性が高い方でも、ワクチンがカバーする型のHPVに感染していなければ、その型のHPV感染を予防することができます。若年者であるほど、その予防効果を期待できます。国内既承認のHPV16/18型を予防する2価ワクチン(サーバリックス®)と6/11/16/18型を予防する4価ワクチン(ガーダシル®)に加え、6/11/16/18/31/33/45/52/58型を予防する9価ワクチン(シルガード9®)が、2020年7月に9歳以上の女性を対象に承認されました。また、2020年12月末に、4価ワクチンの適応対象に男性が追加されました。3回接種が必要で、高価なワクチンですが、がんの予防効果を期待できる点でメリットが大きいワクチンです。

*12-16歳の女子の場合には、公費助成により2価ワクチンまたは4価ワクチンの接種が可能です。